真珠4

アホ長いです
「生ビール、お待たせしました。」
店員が引き戸を開けて陶器のジョッキを目の前に置くと同時に悪戯な足は引っ込んだ。
「とりあえず、乾杯!」
「かんぴゃぁーいぃ!あーんど、おかわりぃ。」
K美ちゃんはすでに3杯目、かなり出来上がっているようです。
ビールがうまい。
絶妙の温度に冷やされた陶器に注がれたビールの決め細やかな泡と舌触り。
プロのお仕事に感動。
それにしてもいきなりのメールと足技攻撃には面食らいました。
かなりダメージが大きいです。
さしずめ試合前のセレモニーの花束贈呈式の花でシーク&ブッチャー組にメタクソにはたかれ、
挙句の果てに隠し持った凶器で攻撃されゴング前にすでに流血しているザ・ファンクスといったところでしょうか。(知らないよね)

「ところでさあ、俺のアドレス誰に教えてもらったの?」
「はぁ?アドレスって何ですかぁ?」
「携帯のメールアドレス、さっきメールしたでしょう?」
「え???さっきパパにはメールしましたけど。」
(あれれ、じゃあさっきののは何?)
頭の中で色々な記憶を紐解いてみましたらいくつか思い当たるフシがありました。
(じゃあ、あの足技は何?)
訳がわからなくなってきた。
目の前でK美ちゃんは鼻歌を歌いながら豆腐を食ってビールをがぶ飲みしているし。
「ねえ、話があるって言ったよね、なんの話?」
もう一度試合開始のゴングを鳴らしてみました。
「えー、言えないれすよぉ、やっぱり。」
またまたじっと見つめるK美ちゃん
(また来るのか?足技が来るのか?来るなら来い、今度は応戦できる。さあ来い、カモーン!)
「お待たせしましたー!」
引き戸が開いて料理が運ばれてきた。
ここの店員、絶妙のタイミング、今風で言うならKY。
「おきゃわりぃー、ビール!」
K美ちゃん、ビール大好きなのね、4杯目。
私は熱燗のお奨め酒を注文。
刺身がうまい!天ぷらがうまい!料理に舌鼓をしていると不意をつかれました。
膝のあたりを足先でツンツン。
(アッ!)
思わず声が出そうになりました。
(来たな、逆襲してやるどー)
しばらく相手の攻撃を受けて返す。しかも返し技は一発逆転のスピニング・トーホールド。
脳内ではすでに竹田和夫のレスポールサウンドが唸っています。(当時はYAMAHA?)

K美ちゃんの攻撃はまずは膝ツンツンから右足先で脛をスリスリ、同時に左足の甲でふくらはぎを押してきます。
次に両足の甲を踏んづけたとおもいきや、足指の間を攻めてきました。
両足で片方の足をやさしくつつみこむように撫でてきます。
この攻撃はしばらく続きましたが卓の上では普通に日常の会話などしてたり。
「ダックさん、今日は何の日ー?」
「今日はバレンタインデー、おうちでみんなが待ってるよー。」
「お酒飲んだら帰れないでしょー、どっか泊まるんでしょー?」
「電車で帰るよー。」
そう言ったとたん、ギューっと両足を凄い勢いで踏んづけられた。
「ヤダヤダー、帰らないでー、朝まで飲みたーいぃぃぃー」
どうやらただの酔っ払いの女子になってしまったみたいです。
若いころなら、後先考えず酔った女子を抱えてうっしっし、となりますが。
それなりの立場があったり、ましてやK美ちゃんのパパはお知り合い。
ましてや社員の女子と○○○○とかになったら、たぶんお終い。さよなら。
足を足でいじられるのがこんなに気持ちいいとは半世紀近く生きて知らされました。
逆襲はできませんでした。足が不器用なんですね。
あざ笑うように逃げられてはまた技をかけられノックアウト!ジョー樋口のカウントスリーをひさびさに見たい。
すごい疲労感、どっと疲れが襲ってきました。
クルマで通勤している私がお付き合い等で、飲んでしっまた場合は。
1: 電車で帰る。
2: タクシーで帰る。
3: 泊まる。
このうち一番お金がかかるのがタクシー。
諭吉が一枚消えます。
まあ、電車があるうちに早目に切り上げるのが、お財布にも家庭にも優しい。
でも一時間半、へたすりゃ二時間。
最近、会員になった某ホテルなら、シングル一泊がタクシー代の半分。
トイレに立ち、家に電話。
「ごめん、付き合いでちょっと飲んでさ、しつこくてさ、たぶん帰れないから・・・・」
「いいよ。明日、朝早いんでしょ?起こしてあげるから携帯抱いて寝て。」
あっさり承諾されてしまった。
チョコとか、バレンタインデーとか、ひと言も出なかった。
さっそくシングルを一部屋予約をして個室に戻る。
「そろそろ帰ろうか、明日も忙しいし。」
「やーーでーすー。もっとーのみのみしーたーいー」
ああ、会社ではおとなしくって、目立たなくって、地味で、細身のK美ちゃん。
(こんな姿を誰も想像しないんだろうなー、自分にだけ見せてくれてホントにありがとう。)
タクシーを呼んでもらって、K美ちゃんを押し込んで行き先を告げたら観念したみたい。
おとなしくなって、ショボンとしちゃって、うつむいて手だけでバイバイ。
あー引止めたいよ。後悔したよ。
でもこれが大人ってやつなんです。おとなの対応のお手本、自分に拍手!パチパチ!
(さてさて、久々にひとりでゆっくりねるかなぁ)
チェックインして部屋でシャツを脱いだそのとき、携帯が震えだす。
(メールだ、誰かな?)
「タクシー降りちゃった。」
さっきの見覚えのない同じアドレスからのメール。
(なんだ???こないだのコンパニオンじゃないのか?)
「誰?」
返信した。でも10分たっても返事が無い。
「もしかしてK美ちゃん?」
もう一度送信してみたけど、返信が無い。
何だか心配でシャワーも浴びれない、ただ、携帯を手にして部屋の中をウロウロ。
(誰なんだ?からかわれてるのか?もしもK美ちゃんだったらすごく心配)
いても立ってもいられない、ただ、さっきの足の感触だけが妙にいとおしく、懐かしく、とにかく会いたい。
K美ちゃんに会いたい。
ただひたすらメールの送り主をK美ちゃんだと信じて返信した。
「どこにいるんですか?ごめんね。ウソついちゃった。帰るとか言っちゃって、実はOOホテルに泊まります。近くにいるの?会いたいよ。」
どうしよう、もしK美ちゃんじゃなくて、口の軽い女子の友達だったりしたら・・・・
メールを送ってからものすごく後悔しました。
(なんて馬鹿なことしてんだろ、なんて馬鹿な夜なんだろ?ましてバレンタインデーとか、あほか)
でもすぐに携帯が震えて、
「部屋はどこー?」
うおー!うお!ーうおー!!!「703」
コンコンと扉をノックする音。
ドアスコープを覗き込むとそこには、
いつものお団子頭のK美ちゃんがいました。
  つづく(もう少しお付き合いくださいね。)