松浦亜弥までの道のり10(完結)

結局Sは来なかった。しかもT君ときたらSの住所はおろか電話番号すら知らないと言う。私たちは残金が払えず奥の事務所で軟禁状態です。
私:「おまえ、Sとどこで知り合ったんだ?」
T:「スクゥエアビルのディスコでナンパした女の紹介で友達になった。いつもサ店で会ったり、ディスコで会ったりしてたし、うちにもよく電話くれるし、今日もSの知り合いの女も来てたし、たぶん、なんか事情があって来ないんだよ。」
携帯もメールも無かった時代であります。連絡先も教えずにこれほど人を信用させるSという男、只者ではありません。このときすでに騙されていることを確信しましたが、さらにお店を予約した人物がSでは無い事、お店の人は誰もSなど知らないとの事を聞き、さすがにT君も疑いはじめたらしく発狂寸前です。
T:「実は俺さあ、最初にパー券100枚、30万で買ってんだよ。」
私:「えっ?それで何枚売れたの?」
T:「7枚。残りは一枚3千円でSが買い戻してくれたんだ。まだお金もらってないけど。」
私:「じゃあおまえの売り上げたったの3万5千円かよ。ひでえな。早い話30万、ぶん取られたってことだな。」
およそ筋書きがわかりました。Sと言う男が慶大生であるはずもなく正真正銘のサギ師であります。
まず金持ちのバカ息子に女を使って近づき信用させる。儲け話を装いパー券を売りつける。この時点で何にもしなくても30万。あとはバカな学生がせっせとパー券を売って会場費を稼ぐのを見物するだけ、まんまとやられました。さらにうまく券をさばけば100万以上転がりこんできます。
結局T君の学生証を預けて、お店から開放されました。
T:「チクショウ、Sのヤツ見つけてぶっ殺してやる。」
私:「よせよ、相手の方が上手だ。たぶんカタギじゃねえ。30万で済んでよかったんじゃないの?おまえ、あのまんま夜遊び続けてたら、もっとひでえ目に遭ってるよきっと。」
T:「30万じゃねえぞ、ショバ代の残りもあんだろ。あ、そうだ、ダックおめえ100枚買ってんだから10万足りねえじゃんか、返せよな。」
私:「おまえそれが7枚しか売ってねえ人間が友達に言うセリフか?」
T:「ゴメン悪かった。カッコ悪いからみんなには内緒にしててくれよな。金はおれが何とかするから。」
私:「わかった。まあパーティは大成功だったし、誰もわかんないよ。」
翌日には友達の全員がこの話を聞いて、腹を抱えて笑ったのは言うまでもありませんが。(おしまい)